政治ノート 有事斬然

 さわやかな5月の風に明の崔銑(さいせん)が作り勝海舟が好んだ言葉といわれる六然訓(ろくぜんくん)を思い出した。  
  自処超然(みずから処することちょうぜん)
  処人藹然(人に処することあいぜん)
  有事斬然(有事ざんぜん)
  無事澄然(無事ちょうぜん)
  得意澹然(得意たんぜん)  
  失意泰然(失意たいぜん) 
 事に臨んで自分に関する問題には一切とらわれないこと、人に接するときは春山に霞がかかっているようにのんびりとした雰囲気でいること、何か問題がある時はきびきびとした態度で取り組むこと、何も問題がない時は水のように澄み切っていること、得意の時はあっさりしていること、失意の時はゆったりと構えていること。言うべくして難しい境地だ。
 郷土の先輩で、地元の商店をまとめて郊外に大規模ショッピングセンターを作られた先輩が、仲間の会合の会長を辞するときに配られた紙に六然訓24文字が載っていた。その数ヵ月後に、その先輩は亡くなられたが、ガンでかなり苦しまれたという。入退院を繰り返されている間にお会いしても、お会いする時はいつもニコニコされていたので、今もって、その笑顔とご一緒するだけで和気藹々とした気持ちにさせてしまうお人柄が懐かしく思い出される。
 内外のニュースに目をやると、大きな問題、有事が重なって生じつつあるかの気配である。ギリシアの財政破たんはユーロ安と株安を招き、日銀は銀行間市場に2兆円の資金供給を実施したと報じられている。「韓国軍艦の沈没は米国潜水艦の沈没と関係がある」、「宮崎の口蹄疫は韓国・香港から輸入だ」との情報が飛び交っているが、テレビは鳩山、普天間移転問題ばかり報じている。毎日、新しい案が新聞を騒がせるが、貧する鈍するの類で、とても現実的だとは思えない。交渉がまとまらない責任を米国側に責任をかぶせよう、決着は無理なので頑張っている姿だけでも見せておこうという意図だと思われても仕方がない。それで済むはずはない。
 浅学非才の身を省みず、ハッキリいえば、「2人」が辞めなければ日本には次の展開がない。首相が辞めれば、幹事長も辞めなければならない。幹事長を辞めれば訴追されるという執着心が政権を延命させている。このまま行って参議院の選挙で負けるにしても「そこそこの負け」ならば、連立組み替えでしのげる。そこをしのいで9月の党内選挙で多数を制するというのが民主党多数派の考えだろう。少数派は、何とか幹事長だけ辞めてもらい大胆な内閣改造でイメージを一新し選挙に臨みたいと考えているだろう。そんな綱引き力学は国民には関係がないし、マニフェストも関係がない。マニフェストマニフェストと騒いだところで、出来ないことを約束されても、書いてないことを強引に推進されても困る。また国民全体の支持がない政府が、逆転を狙って対外交渉をしようとしても、国益を守ることは難しい。ではどんな人が望ましいか。
 一書にいわく「およそ人を挙げるのは、退を好む者がよい。退を好む者は廉謹にして恥を知る。忠節ますます堅くして失敗は少ない。」という。
「冷に耐え、苦に耐え、煩に耐え、閑に耐え、激せず、躁がず、競わず、随わず、以って、大事をなすべし。」という人がどこかにいるはずである。