政治ノート 政権座礁

 鳩山内閣の支持率が20%台前半に落ち込んだ。「数多くの迷走の末、座礁した」という表現が的確だと思う。米国大統領との非公式会談についての報道した米国紙について「無礼だ」と官房長官は怒ったが、同調する国民は少なかった。むしろ静かな怒りが広がっている。11月の時点で予測された衆参同時選挙の可能性について尋ねると一笑に付されてきたが、今ではある確率で起こりうるシナリオの一つとなった。同時にやるかどうかはわからないが、1年以内に総選挙となる確率は高くなった。野党の総選挙準備の整わないうちに首相を交代して信を問うと考えれば同時選挙となる。そうなれば準備の整った民主党は有利であり、野党は内心ひやひやしているだろう。国家戦略大臣は援護射撃と党内引き締めも兼ねて同時選挙論を唱えだした。正論であり、彼が首相になればそうなるだろう。
 田舎者の見方では、選挙を有利にするために選挙直前の6月に支給が始まる「子ども手当」が争点となるのではないかと思う。必ずしも民主党に吉と出るとは言い切れない。荒っぽい選挙が許された時代の歴戦の選挙のプロから「貧困層にお金を打ち込むことが白兵戦のポイントだ」と何十年前に聞いたことがあるが、日本の母親達の賢明さを見誤っていないだろうか。子どもたちに借金を残す政党を許すだろうか。いずれにせよ我が国の将来は、現在の内閣の延長上にはないので、やめるのならば変な功名心を起こさずに速やかにやめてほしい。
 民主党の次の首相候補は誰なのか、この半年で、手堅く人望を集めそうな人、気は強いが実務判断力は驚くほどない人、隠していた野心が表に出てきた人、批判力は鋭いが昨日読んだ教科書の内容をもったいつけて話す人、黒を白と言いくるめるのに全力を尽くす人など、今まで見えてこなかった民主党の有力政治家の人物像がこの半年で見えてきた。仮に総選挙となった場合、新しい首相に誰がなっていても、選挙後は政治勢力の変動が生じ、連立組替えが起ると考える。総選挙がない場合でも、野党勢力が多数をとれば、民主党の迷走は是正されるのではないだろうか。思い通りならなければその時点で結局は総選挙となるので、1年以内に総選挙が予想される。選挙にあたっては、外国人地方参政権天皇陛下の政治的利用に対する考え方について、どういう考えを持つ候補なのかがマスコミを通じて、事前にアンケートされ、その資質が辛口であれ何であれ適正に評価される必要があるだろう。
 鳩山首相が選ばれてこの半年でわかったことは、米国の大統領選挙が2年もかけて運営されることの意義であった。そして政治学行政学の専門家が官僚統制を打ち破るために考えていた「政治主導」の思考実験が上手くいっていないことである。局長以上のポストは政治任命制とすることは本当に必要妥当なことなのであろうか。若い時から選挙のために夏は盆踊りを梯子しなければならない人たちが、行政の目標設定と政治的な選択をするのではなくて、実際の行政実務をやることの弊害は、あまり表に出てきてはないが著しいものがありそうだ。
 表に出てきた数少ない事案の一つが、民主党内では保守派の外交通とされる副大臣が「システム開発のエンジニアの日当94千円に激怒した」という事件である。1日94千円に22日かけて月に一人当たり2百万円が法外だという。報道が深掘りされることもなく過ぎていくので見過ごされているが、数十億円規模のソフトウェア開発の仕事であれば、ある比率で月間2百万円の契約単価を持つシステムエンジニアを雇わなければシステムは作れない。ソフトウェア会社に2百万円と払っても、そのシステムエンジニアの給与ではない。平均でみれば1/3の60-70万円位ではないかと推測する。もし単価だけが怒った理由ならば世間知らずと言われても仕方がないと考える。
 各省庁において政府三役の会議は政治家だけの密室で行われ、公務員試験をパスし何年も経験を積み留学したり様々な経験をしてきた官僚のサポートを受けずに決めること自体が我が国の統治能力を制限しているように思えてならない。政務三役会議で話される内容が暴露されると、アキレラレルこともあるだろう。しかしそれはどの組織においても上位の意思決定者が背負う宿命であり、スタッフを使いこなせない人間が上位についてはいけないのである。そんなことで官僚を排除するのだとしたら馬鹿げている。政治主導でも官僚主導でも、政治的決定以外のことについては、お国のために良いことは差がないはずだ。この面で行政学者や政治学者が象牙の塔に立てこもっているのが不思議でならない。