「戦争学」を学ぶ  松村劭閣下の教え (1)

 先月末、松村劭閣下がご逝去された。注文していた閣下の「戦争学のすすめ」(光人社、2007年)が一昨日書店から届き早速拝読した。本を読むのは苦手なほうではないが、時間がかかった。一言一句お腹に響いてストンと落ちた。本当のことを教えてくれる本は少ないが、この本はそうした一冊だ。「真に平和を欲するならば戦争を学ばなければならない(リデル・ハート)。戦争と平和の間には不和があり、緊張がある。多くの国は戦争を軍人任せにせず、戦争を『戦争学』という社会科学として研究し、大学に戦争学部を置いている。」とし、その戦争学の真髄とは何かを示された。政治学や国際関係論、経済学、歴史学を学ぶ若者に、まず最初に読むことを勧めたい本の一冊だ。もし国民がこうした知識を持つならば現在の日本の政治の迷走はなかった。「国防は百年の計」であるならば、この閣下が生涯を通じて研究された戦争学を全ての国民の共通財産とすべきと考えた。
 序章  戦争と平和の間 
 第一章 国際関係の基本
 第二章 二つの戦争学
 第三章 戦争学から見た敗戦
 第四章 日米戦争の戦略的考察
 第五章 米国国家戦略の特性を探る
 第六章 三つの危機迫る
 第七章 海洋国家の戦争学
 終章  日本の栄光を復興しよう
 付   十八世紀プロシャと現代日本の相似性

 国家が国際社会において自由、独立、平和と繁栄といった国益を追求するためには国家戦略が必要である。国家戦略は外交と軍事戦略から構成される。国際社会を構成する諸国の国家戦略が同一の方向を向くことはなく、戦略ベクトルは衝突する。そして不和、対立、不審、緊張、戦争の基盤的な原因となる。
 軍事史からみた国家戦略が衝突する戦争の構造的要因は、1)地政学的対立、2)国体の対立、3)国力の不均衡の3つだとされる。地政学的対立とは、典型的には海洋国家と大陸国家の対立だ。大陸国家は土地をの占有と使用の権利によって階層社会を造るが、海洋国家では全員が力を合わせて船を漕ぐ事が必要であり平等関係を重んじる。国体の対立とは、共和制と絶対王制の対立、社会主義と資本主義の東西冷戦が事例としてあげられる。国力は、人々の人口、国民性、国民の団結・規律・士気、教育訓練、産業経済力、政権の統治力、外交能力、軍事力の8要素から成るが、これらが国によって異なるうえに、時代とともに消長する。国際社会における既得権益は国力の消長に応じて容易に変更されることはない。そのため既得権益の現状を維持したい国と不満を持ち変更したい国が生まれる。従って軍事的に弱体な国家が強力な武装国家に隣合わせると戦争は避けられない。
 しかし構造的対立があってもそれが直接的な戦争の原因とはならない。国際関係ではいつも予期せぬ無数の摩擦が起こる。それらを上手く処理することが国家指導者の役割であり決断だ。
 人間は合理性のみによって判断も行動しない。人間は弱く、はかなく、欲張りで怖がりな存在であるため、偶発的な紛争や戦争を避けることが出来ない。と同時に誇り高く気高い存在であることも改めて考えさせてくれる一冊だ。