政治ノート 陶片追放と2015年危機

1.陶片追放の意義 
 予想通り民主党の支持率が低下している。今や不支持率の方が高い。だが自民党の追撃態勢はまだ整っていない。第三の勢力に期待すべきかもしれない。日本で最も影響力がある民主党幹事長が東京地検特捜部により家宅捜索され国会議員を含む秘書グループが逮捕された。本人も任意の事情聴取を受けた。秘書のやったことだとして幹事長は続投するようだ。 政権交代以来、彼の持論である「民主主義とは選挙であり、選挙で勝つことが何より大切」という考え方が喧伝され、選挙に良いことは何でもありとなっている。中国副主席の来日に際し幹事長の天皇制に対する配慮を欠く言動が多くの日本国民を驚かせ怒らせた。彼が作り上げた選挙に強い民主党では、活発だった党内議論が無くなった。議員立法は禁止され、一年生議員は選挙区での草取りと拍手と研修以外やることがないという。党と政府は一体であり、政治主導で官僚には答弁させずに、国民の要望・意見は幹事長が一括してまとめ、国会では連立与党が多数を持って議決することとなった。自分の意見が国民の声でありと国民に良かったと言ってもらえると本気で考えているようだ。
 そのなかで韓国政府と約束した外国人地方参政権法案が上程される。地方の首長の反対が相次いでいるが、官房長官は地方の問題ではないと斬って捨てた。不可解だ。かつて外国人地方参政権を許容する説を主張した憲法学者も許容説を誤りとして撤回した。国会で民主党憲法についての内閣法制局長官の判断(役人の考え)を求めないとしているので一般的に正しい憲法解釈が述べられる道は期待できない。裁判所に憲法違反として退けることを期待しても、最高裁は具体的問題が起こってからでないと憲法判断をしないという原則でしか行動しそうにない。憲法判断について議会の取り扱いを変えるのであれば最高裁が能動的に自律的に意見を表明しなければ意味がない。
 幹事長が逮捕されるか否かはわからない。バリバリの左派出身の法務大臣は指揮権の発動を否定していない。小沢グループの次期首相候補とも目される総務大臣はマスコミを巧妙に批判牽制してみせた。民主党内では、検察庁が反対する可視化法案の法制化が促進され、検察情報のリークを追求する動きが顕在化した。検察庁の人事異動でトップに民間人を起用する動きもある。まるで秘密警察が支配するどこかの国のようだ。自分達が政権党であるにもかかわらず官僚機構との全面対決だと息巻く民主議員のバランス感覚には驚く。鳩山子供手当の初回は参院選前に配られる。これは国家の金を使った買収選挙のようだ。首相は参議院選挙後の省庁改変を言い出した。その後もまだ政権を担当する気があるらしい。このまま自民党や第三の政党の追撃が間に合わず、7月の参議院選挙で民主党が順調に過半数をとれば民主独裁制の国が完成する。
 しかし普通に考えれば、それでは世の中は収まらない。ギリシア陶片追放の意義を初めて理解した。
2.眼前の、そして2015年の危機
 2010年度予算の審議が始まった。昨年末決定されるはずだった防衛大綱は先送りにされたままだ。1月にはいって米国の対中政策はややスタンスを変えた。米国は台湾への武器売却を決め、グーグルの中国事業における検閲反対の表明を支持している。台湾の対岸には1300基以上のミサイルが配備されているといわれているので、当然の措置だと考えるが、中国は反発している。だが一方でインド洋において日本の自衛隊が撤退した後の洋上給油を代替したいとしている。対テロ作戦なので拒否する理由を見つけるのは難しいかもしれない。
 日本の防衛について民主政権が何を考えているのか、否、考える能力があるのかどうかは極めて疑わしいと感じている。自民党もその点抜かりがあった。既に東アジアの国々やオーストラリアの海軍は、中国の軍拡に対応して増強に動いている。日本にとっても2015年にどう備えるかが大きなポイントなると考えられる。2015年には2隻の中国海軍の空母が稼働し始めて東アジアにおける軍事バランスを決定的に逆転することが予想されるからだ。これらの空母が多くの漁船を従えて日本の領海に入ってきた場合、これに対抗できる勢力は米国の第七艦隊であり、それをサポートする自衛隊だ。つまり日米安全保障条約の発動しかない。
 第二次大戦後の歴史をみると中国は武力を使うことを躊躇しない国の一つだ。また「中国共産党独裁政権」は政治的な正当性の基礎を反日ナショナリズムにおいているので、何か事件が起こるとすぐ反日運動がおこる構図にある。中国自体は広大な領土と経済発展段階に大きな格差を持つ国家をまとめるうえでは独裁的な体制を取らざるを得ず、その外に敵を求めたいという論理が働いている。しかしその標的を日本に求められては迷惑だ。だから防衛の主眼は対中国抑止力の強化にあり、次に北朝鮮のミサイル対応にある。北アフリカの海賊も、中国漁船に漁場と魚を取られて生活の糧としての海賊行為だという人が出てきた。
 政権交代以来、民主党は何の説明もなしに反米親中のスタンスをとってきた。スタンスというより、同盟国として当然の連絡を怠り、約束をたがえ、怒りを買う発言と行動を繰り返しているので驚いている。日本政府の言い分よりも、米国政府が怒る理由の方が、外交の素人にも良く理解できるのだ。民主党の保守派の沈黙が続くならば国民にとっては、いないのも同然だ。政権のトップが、一人は敵味方識別装置が壊れているための反米、一人は選挙に勝てば米国は何とかなるさの反米では、理屈がないだけに始末に悪い。
 普天間問題を担当することになった官房長官は、その問題の経緯を学び米国の考え方にふれ、防衛情報が入り始めたためか、最近、素直な保守派と同じ意見を述べて批判されている。いまさら何だと言えなくもないが、辺野古移転に市長選挙の結果は直接関係ないと理屈では言えても、事実上反対運動に雇われた漁船や全国「反戦」支援団体がとりかこむ中で工事は難しい。嘉手納の近くに海兵隊用飛行場を新設する案、伊江島の補助飛行場を活用する案が米軍からみればもっとも現実的だとの指摘がある。5月に決まるかどうか日本の田舎に住む普通の人々が心配している。
 普天間が片付けば、日米安保50周年と防衛大綱見直しということになる。そこで重要になるのがこの2月から3月にかけて発表される米国国防総省の「米軍戦力構成の4年次見直し(QDR)」と米統合参謀本部の発表する「国家軍事戦略」、そしてホワイトハウスから発表される「米国の国家安全保障戦略」の3つだ。東アジアや日本についてどう表現されているのか興味深い。
 そうした方針がどうであれ、個人的には集団安全保障を是認し、きちんとした国際貢献のできる日本でありたい。世界から評価されていた年間数十億円のインド洋洋上給油をやめて、アフガン援助に人を出さずに年間900億円供与するほうが正しいかどうか、事業仕分けにかけるべきだ。中国が年率10%軍事費を増大させるならば、日本も抑止力を有効ならしめるために暫くの間、同じ年率で軍事費を増大させよう。中国の軍事支出総額は発表されている額の3倍とされているので中国にはかなわないが、彼らと同じ比率で暫くの間、積み増すほかはない。GNPの3−5%が国防支出の国がほとんどなので、10年かけて1.5%前後の軍事支出の国が3%の国になってもそうおかしなことはないはずだ。そして、きちんとした抑止力の裏付けを持った平和外交をする。理不尽な国には自信をもって反論できる国でありたいと思う。
 その中には米国国防高等研究計画局(DARPA)のように国防研究の中から新しい産業の技術を産み出す投資もあってもよいと思う。軍事と民生分野の技術に差が無くなってきているので、必要なことだからだ。そうすれば若者の理系離れにも歯止めがかかり、長期的な競争力の構築の一助になる。次期主力戦闘機がユーロファイターになるにせよ、F35になるにせよ、もはや一国が戦闘機を開発することは難しくなっている。米国以外の国々とも共同開発が可能な形を取れば必然的に武器輸出3原則を見直すことになる。同時に民生品の素材やゲーム機、塗料、ジープなどが軍事物資として使われることも多くなっており、これらを普通に輸出するための新たなルール作りが必要だと多くの人が感じている。その意味では、防衛大臣がこれを見直すとしたのは当然だったが、もう少し、しかるべき場所と論理できちんと主張してほしかった。2015年の危機に備えるためには、与野党を超えて本当の議論ができる体制を構築するところから急がねばならない。