政治経済ノート   

1.法治国家の終わりと陶片追放時代の始まり
 鳩山首相資金管理団体の偽装献金問題で、東京地検特捜部は首相本人の事情聴取を見送る方針のようだ。首相が偽装に関与した形跡がないとの見方からだ。実態はだいぶ異なると思う。こうした方針は当局から数日前にリークされ、事業仕分けの人気のゆえに、民主党と首相の支持率が落ちてないので不問に付したいようだ。ただ問われている罪状は、政治資金報告書の偽装に関与したかどうかでなく、個人の資金であれ、母親の資金であれ、政治資金規正法の限度を超えて献金したことであり、匿名のお金を受け取ったことである。前秘書の自分が働いているように見せたかったという弁明を信じる人は誰もいない。母親のお金であればこれに脱税が加わる。法を守れとは言えない首相、前に言っていることとやっていることが違う首相が国民と政治をどう主導できるのか大いに疑問だ。国会では議論せず、世論の主導を理由にマニフェストの変更を口にしだした。問題なければ国会で堂々と弁明すれば良い。そういえば最近、検察のバッジが変更され「秋霜烈日」から「春風友愛」になったと聞いた。この傷は癒えることなく首相の人気の低下とともに大きくなる。新たな陶片追放の時代が始まった。

2.対策よりも、戦略と決意
 ドバイ債務問題を契機に円高がすすみ景気の先行きが怪しくなり、日銀は限定的ではあるが通貨の供給を増やし始めた。その数日前に副総理がデフレを宣言したが、同時に発表されたのが3兆円弱の補正予算だった。1次補正予算で前政権の組んだ補正予算を3兆円削減しているので規模的には元に戻ったことになる。ここ数日さすがに上積み検討が始まったが、総額で4-7兆円の幅で議論されている。どちらにしても年度内の執行という観点からは遅く、副総理が力説すればするほど底の浅さが見えてくる。

 確かに国債の発行水準自体は大きいかもしれないが、外国政府統計との比較でいえば、貸付資本金等もあり、それを相殺して発表するとまた円高を呼び起こすため、変更できない事情もあろう。行政改革推進法は、なぜ1.資産と負債を減らす、2.特別会計改革、3.独立行政法人改革、4、公務員改革を一体となってやるとしていたか、もう一度ご自分で読まれてご自分で数字を拾われたらいかがだろう。12月に積み増しを決めても4月以降にしか効果が出てこないことがわからないだろうか。
 100年に1度の不況だとなれば、国債整理基金への定率繰り入れ停止することも已むをない。それにより10兆円規模の財源が出てくる。というより見かけ上の国債発行額は減額される。おそらく来年度の補正まで念頭に置けば予算は最終的にはその手を使って編成されることになろう。現時点での数字の整理をすれば、見せ場を作るためにそのまま出せとして膨れ上がった95−97兆円の各省要望に対し、事業仕分けで削減と積立金返納により1.3兆円ねん出。国債の発行額は44兆円。税収は本年度並み37兆円で合計82兆円、定率繰り入れの停止で10−12兆円を捻出し92−94兆円程度の当初予算となるのではないか。霞が関埋蔵金といわれていたものは既にここ2−3年でかなり予算に組み入れられおり、その残額その他でやり繰りすれば今年度の補正予算分もなんとか賄えるという筋書きではないだろうか。財務省の算段は10月初めに決まっていたように思う。ただ現段階では甘い顔せず、年内は可能なだけ増税圧力とマニフェスト見直し圧力をかける筋書きなのではないか。 
 しかし問題は、そうした財務省のやりくり算段を超えたところにある。原油高、金高、円高はドルの信認の揺らぎに他ならず、円高圧力が簡単に弱まるとは考えにくい。今必要なのは対策ではなく、過去の経験を踏まえた戦略とそれを実行する決意なのではないだろうか。

3.「デフレと円高」 過去の経験
「デフレと円高」と聞くと、1990年以降15年間のバブル崩壊後の日本経済を思い出す。そして同時並行的にベルリンの壁が崩壊し、一気に「経済のグローバル化」がすすんだ時代のことだ。
 日銀はゼロ金利、さらには量的緩和まで金融緩和を進めてみたが、円安は進まず期待されたデフレの歯止めとはならなかった。金融機関の貸出しも増加しなかった。一般に金融政策は引き締めるためのブレーキ機能はあっても経済を加速するアクセルではない。金融緩和を長年続けた結果、銀行間市場、オープンマーケットは機能不全に陥った。10年国債20年国債の利回りは1%を下回り運用利回りは限りなくゼロに近づいた。収益力が低下する中での不良債権処理・評価損処理で金融機関の経営が揺らいだ。米国はこの間、自らのファイナンスがしやすいように金融緩和を要求し続けた。同盟国といえども、政治家の知性・洞察力そして安全保障対応力の差が外交交渉の成果に反映された。 
 財政政策も手づまりだった。需要の不足を補うために日本では相変わらずケインズ政策がとられた。人口統計上の構造的な貯蓄過剰を解消し、高齢化社会に耐えうるインフラ建設という意図もあったが、今から考えれば無駄も多かった。バブルが弾け、資産価値の下落は追加的な償却・返済額を加速度的に大きくした。返済は「貯蓄」であり、個人も企業も「貯蓄」を余儀なくされ、消費や投資は減ることになった。 
 2002年9月の日米首脳会談で不良債権処理の加速が約束された。狙いは2つあり、1つは米国債売りを防ぐこと、2つ目は米国債を日本の金融機関が売らないようにするための公的資金注入と国有化だったとされる。米国債を政府が買い取るという方策もことも可能だったはずだが、破綻させた上で海外の資本が整理回収機構を経由して買いたたいた。いわゆるハゲタカ・ファンドである。資産購入価格が思い切りたたかれるので、銀行はいくら引き当てを積んでも割が合わなかった。この加速処理に対する批判は今でも日本国民の底流にあり、本年春「簡保の宿の安値売却」批判として噴出した。長期的安定的な成長を図りたい資本主義と、当期利益最大化を目指す資本主義では、同じルールでも行動が異なり、お互いが納得することは難しい。時価会計の導入も、資産デフレが進行する時期に採用されたため銀行も企業の体力を弱めた。資産価格の考え方も、米国では適正価格に幅があるのに対し、日本は文字通り律儀な時価が適用され、逃げ場がなかった。

4.今後の経済成長のシナリオ
1)石油の決済がドルで行われるというドル石油本位制度が崩れつつあり、ユーロや金などと並んで、図らずも「円」は準国際基軸通貨の一つとなったのではないか。今後ドル漬けとなった世界を徐々にシフトさせていく一翼を担わざるを得ないとすれば、自らの貯蓄と国益に基づいた奥の深い金融市場としての東京を発展させていく必要がある。そのための制度や運営ルールの透明性の確保と思慮深さが求められている。

2)そうした通貨制度の中では円高メリットを享受しながら製造業の強さを維持するための施策が求められている。
 a.科学技術への注力と技術開発型ベンチャーの起業推進
 b.世界第7位の広さを持つ海洋国家としての食糧資源エネルギーの開発
 c.武器輸出3原則の見直しと共同技術開発・調達コストの引き下げ
 d.全国を3百数十地区の二次医療圏をベースにした地域開発計画の策定
 e.公的地価を基準とした新たな地域再開発促進制度の制定
 f.70歳定年制への移行とロボット技術の活用普及
 g.海外環境・資源・都市開発産業の促進