民主党政権の迷走と米国への対応

 『第二次世界大戦の起源』を書いた英国の歴史家A・J・Pテイラーは、歴史研究においては道義的観点を排除するべきことを強調した歴史家として知られている。彼が「もっとも恐ろしい政治家はしゃべったことを文字通り実行しようとする、あるいは実行可能であるかのように国民に思わせて、抜き差しならなくなって国民を道連れに地獄へ向かう政治家だ」と繰り返し書いていると知ったのは中西輝政教授の『日本の死』という本を読んだ時だった。ただ、つい最近まで何を言っているのか実感として理解できないでいた。

 予算の概算規模が92兆円に固まるようだ。昨年度当初予算が88.5兆円で、今年度の補正を3兆円減額したので、その分を加えて91.5兆円、92兆円弱で、マニフェスト通りにやって昨年度の自民党と同じ予算規模に抑えましたと言いたいらしい。農家に対する戸別所得保障を来年度から先取りしなければ、概算要求も93兆円弱になってしまい、政治主導のフリをできないので大変なようだ。ただ世間の論調はここ数日で少し現実的になってきた。新聞、テレビなどのマスコミも、広告費の急減と構造変化で、少し世の中の風を感じているようだ。困ったことは忙しすぎて政権首脳部にその感覚がなく、意見のブレが大きく、優柔不断なことだ。訳がわからなくなって、マニフェストにしがみついているように見える。おそらく、これから起こることは、大変なフリをしているうちに本当に大変なことが押し寄せてくるという事態だろう。

 米国のゲーツ国防長官が来日する。ハワイでの韓国報道機関の取材によれば、アフガニスタン支援問題で「少なくとも現在と同水準の支援が将来にも継続されることを望み、軍事支援が政治的に難しい国は、少なくとも金銭的な支援を求める」ようだ。日本はインド洋での給油活動(年間80億円=0.9億ドル位か)を除くと、2001年からのアフガン寄与金額は20億ドルで、このうち17億9000万ドルを執行したが、米国は2010年会計年度だけで680億ドルかかっているようだ。サンゴのためにすでに合意したことも実行できない上に最大のライバルに媚をうる同盟国とは何なのか日本人でも考えてしまう。
 地方の新聞は社説で、ようやく「鳩山首相政治資金規正法違反には自ら釈明を」と言い出した。しかし釈明では済まない問題なので、次は誰になるのかということになるが、それは民主党の国会議員が悩む問題だ。自民党をはじめとする保守系は大同団結しなければいけないが、まとめきれる人が残っているのだろうか。来年の参議院選挙は候補者次第だが、言われているような民主党の圧勝にならない可能性がある。というのは時間がたてばたつほど、不公平感や、問題点が強調される政策を問答無用で進めているので、実施段階での軋轢は増大するからだ。

 国家として早急に検討しなければならないのは、内需拡大のための方策と米国への対応だと思う。
 1.内需拡大   地震などの大規模災害に備えた防災拠点の整備と公衆トイレの増設、自衛隊の災害出動のための支援物資の集積場所の整備、病院ネットワークの補強、さらには民間保育プログラム拡充のための制度改定など即効性のあり、全国に普及できるプログラムを考えておく必要がある。
 2.米国への対応 まずは沖縄県案での普天間移転の実現、アフガンにおける民生支援、経済援助の増額が必要だろう。それだけではなしに、日本と米国との絆を強めるために何をするかということがもっと重要だと思う。精神論や米国国債ではなしに、米国国民の所得を実際にどのように増やせるかいう視点が重要ではないだろうか。米国人教師の倍増、3倍増などに加えて、共同での天然資源開発、米国製品ということで巡航ミサイルや輸送用大型航空機の導入など優れている米国製品で、なおかつ日本に必要なものを輸入をすることが必要になるのではないだろうか。