海上輸送なくして日本も中国も生きられない  抑止力としてのヤジ

 「『台湾問題』の先にある危機」(ビジネス社、2001年)という本の中で江畑謙介先生が書かれた論文の表題である。現実は予測通りに悪化していると思うのは私だけではないと思う。
 以下、江畑先生の論旨を紹介します。
 中国、台湾、日本にとって海上輸送がどれほど大切かがわからなければ、軍事的駆け引きや緊張感が理解できない。現在(2001年)のペースで中国が軍事力を増強するならば、米軍なかりせば、中国軍は2015年前後には日本のシーレーンを脅かし台湾の海上封鎖をできる能力を身につけることができる。
 そして2050年には6隻の空母を持つ軍事大国となるとしている。現在、中東から原油を運んでくる20万tタンカーは、マラッカ海峡を通れないので、スンダ海峡かロンボク海峡を通るが、その前後でインドとベトナムの前を通る。中国とそれらの国との関係が悪化した場合に中国の船舶の通行が妨害されないように、空母を持つことは安全保障の観点からは理解できる。日本のタンカーのように米国の第七艦隊に守られてはいないからだ。
 同様に台湾は日本の海上交通の安全性にとって極めて重要な位置にある。石垣島から台北までわずか80キロ、台北那覇那覇・鹿児島の距離はほぼ同じ距離にある。台湾周辺の軍事衝突では日本は必ず巻き込まれし当事者の一端になる。自国の一部であろうとなかろうと、自国政府のやり方が気に入らないからと軍事力で制圧するというのは軍国主義である。
 海上封鎖するという方法もある。そのため、台湾としては、防衛の第一は制空権・制海権をとられないこと。同時に潜水艦による封鎖、機雷による封鎖を受けないために、対潜水艦作戦能力、掃海能力の増強が中心となる。つまり台湾の抑止力を高めることが重要になっており、01年4月に米国からそれに伴った武器の売却がなされることとなった。日本も抑止力を高めるために何をするか、議論しなければならない。
 それから8年がたち福建省等から台湾に向けた弾道ミサイルは1000基を超え、中国海軍の潜水艦も増えた。米国は、アジアのことなど関心がないといわれているオバマ政権に代わった。
 外務省の副報道官だった谷口教授(09年8月JBPRESS)も事態を心配している。「中国海軍は08年12月、駆逐艦2隻と補給艦1隻からなる艦隊をアデン湾へ進出させ、国連が促す海賊予防の国際共同行動に加わった。遠くソマリア沖に出すことで、石油の海上輸送路・シーレーンに及ぶ支配を、米海軍と日本の海上自衛隊、ならびにインド海軍に独占させないという政治的意思の表明である。
 日本の安全保障論議は矮小化され、自民党も「プレゼンスの確保」という役割に全く触れようとしない。アデンの中国海軍は、昔とは異なり練度が高く連続洋上行動124日間という士気の高さを示した。その中国海軍が、中国の言う第1列島線(九州、台湾、フィリピン、ボルネオ島を結ぶ線)をはるかに超え、伊豆諸島から小笠原諸島、グアム・サイパンパプアニューギニアに至る第2列島線に押し出すことを常態化しつつあり、尖閣列島沖ノ鳥島といった日本の領土の先端で示威行動を強めているのは、今起きている事態だ。
 戦略なき運営を財務省に続けさせず、防衛予算こそ今年以降厚めの配分しなくてはならない。米海軍が横須賀や佐世保に維持する勢力と合算して日米同盟全体で見てようやく中国海軍とのバランスを保てている。その米軍を居辛くさせる政策項目を見ると危惧が募る」という。
 政権は変わり、給油の複雑な延長をするはずのところが時間不足となり、拙速を避けるための防衛大綱の発表は1年延期となった。聞けば、23日に国会を開催し、政治資金規正法違反の首相に演説をさせ、26日の静岡・神奈川の参議院補欠選挙前に反論されないまま投票に持ち込む段取りだという。自民党に残された手段は、ヤジしかないのか。