拙速は巧遅に勝る    防衛大綱先送りと江畑謙介先生ご逝去にあたって

 報道によれば、政府は09年度で切れる防衛計画の大綱と5年間の主要装備品の整備内容を定めた現行の次期中期防衛力整備計画(中期防)の策定を2010年末に先送りする方針を固めたという。拙速で不完全なものを作るよりは、先送りしてじっくり検討した方が良いという全く不可解な方針だ。そんな見識ならば政権などとるなと申しげたい。10日に軍事評論家の江畑謙介先生が亡くなられたことが昨日報じられた。残念だ。「平和を欲するならば、戦争を理解せよ。戦争を知るためには軍事について知らなくてはならない。軍事的常識がなければ、自分達が採りうる手段すら分からない」と主張され、正確な知識の普及に注力されてきた江畑先生を思う。

 本年12月末に予定されていた防衛大綱と中期防の見直しにおいて、4つのテーマに対する考え方が明らかにされなければならないと考えてきた。
 1.北朝鮮への対応
 2.増強著しい中国への対応
  1)短・中距離の弾道ミサイル増強(毎年100基増加)
  2)大陸間弾道核ミサイルのDF31の質向上と数量増加
  3)航空母艦の自国での建造に着手
  4)宇宙への軍事進出に積極的。
  5)新潜水艦の開発建造。既に62隻、うち9隻は原子力潜水艦
  6)空軍でも攻撃能力を高めている
 3.米国への対応
 4.国際貢献への考え方

 2国間協議や6ヶ国協議がどうなろうと、北朝鮮が核とミサイルを放棄することはあり得ないと考えるのならば、日本は何をするのか。江畑先生によれば「中国は中国の戦略に沿って、つまり米国に対抗してアジアにおける主導的地位と影響力を確保するという目的を達成するために、北朝鮮への影響力を最大限活用しようとするだろう。」(出所「日本防衛力の在り方」211頁)
 中国が急速に軍事力を拡張する一方で、日本の経済水域内に自国の防衛ラインを置き、尖閣列島に対する領土的野心を表明している現状に、日本はどう対応するのだろうか。
 不況からの脱却と2つの戦場を抱える同盟国米国とどう付き合っていくのか。
 新たなニーズである国際貢献のために必要な装備をどう充実するのか。
以上の諸点について国会で議論をすることが、どれほど日本の子どもの将来にとって大事なことなのかと思えてならない。
 今後の日本にとって必要な軍事能力は何なのかを検討したのが、江畑先生の「日本に足りない軍事力」という著作だ。1.弾道・巡航ミサイル防衛、2.長距離攻撃能力、3.空対地精密攻撃能力、4.パワープロジェクション能力、5.宇宙戦・サイバー戦能力の5つの能力について海外主要国の装備を紹介しながら自衛隊の装備を紹介してその問題点を明らかにしている。

 「東アジアあるいは極東アジアの戦略状況は、国家間の大規模衝突が発生する可能性を残している。」と5年前に分析された。状況はますます悪化しているように思う。「そのような潜在的可能性を早期に認識して、そうならないようにしておくのが外交である。この外交を行うのに当たって日本が持つ軍事的能力(自衛隊の戦力)が軍事衝突を実際に引き起こさないようにできる可能性、あるいは軍事的能力の使い方がある。これを『抑止力』という。こちらの軍事能力を相手が『尊重』して軍事的衝突という選択肢をとっても、自分の目的を達成できないか、目的の達成で得られるもの以上の損失を被って間尺に合わないと思うことで、軍事的手段の行使を差し控えさせる機能である。そのような軍事的衝突を発生させないようにする力が、軍事力の第一にしてもっとも重要な機能とされる。」(出所「日本防衛力の在り方」227-228頁より抜粋)
 2010年5月から10月末に上海の万博が開催されるが、それが終わってから、米国大統領選挙があり、台湾の馬英九、中国の胡錦濤の任期がくる2012年までに大きな地殻変動を予想する人が何人かいる。中国にも良い言葉がある「拙速は巧遅に勝る」そして日本としては「広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ」と考える。