日本航空と事業の定義

往年の超人気企業であった日本航空の再建が問題になっている。労働組合の数が多いとかいろいろな理由が挙げられているが、基本的な原因は、人件費の国際水準の推移とその対応ということに尽きるのではないか。

 かつて日本の賃金水準は欧米の国際的な水準に対して為替も含めてかなり低かった。一方、国際的な仕事は、国内の賃金水準と無関係に、国際水準で決まる。賃金水準が低い国では、国内の仕事と比べて相対的に賃金が高い。大手の商社マン、外交官など、今でも悪くない待遇だと思うが数十年前は比較にならないほど羽振りが良かった。女性が高給をとれる仕事が少なかったこともあって、日本航空の客室乗務員は人気があり、容姿端麗で語学堪能な人が集まった。その相対的な勤務条件が変わっても、日本では客室乗務員になるための予備校まであるほど人気がある仕事の一つになっていたと思う。男子も高学歴な良家の子弟が入社する一方、地方にできた空港では最初に就航してほしい航空会社の第一として挙げられた。同時に、かつては海外の会社と比べれば賃金が安く寄港先で同業者との情報交換も行われやすいこともあり、いろいろな組合が結成されたと推測される。

 だが為替レートが上がり、団体旅行に飛行機が使われるようになり、一足先に大衆化と規制の緩和を経験している米国、欧州の航空会社、新興国の航空会社との競争が激化し、さらには安売り航空券の会社が出てくるにいたって、今までの強みとしがらみが一斉にマイナスに働きだしたというのが実態ではないだろうか。こうした地球がフラットになったことによって起こる事象は様々な産業に起きている。

 どの企業や産業にとっても、5年前の事業の定義、戦略空間における位置づけ、すなわち、顧客と商品サービスと技術の観点からの評価は、現在と異なることが多いだろう。事業が成長している場合でも、経営者自らが常に自らの事業を確認する必要がある。例えば3年おきに現行事業を廃棄するかどうかを検討してみる。商品サービス、流通チャネル、方針を見直し、今から事業を始めるとしたらどうやるか考えてみる。また常日頃接しない自社の顧客ではない人たちの現実、状況、行動、期待、価値観がどのようなものかを素直に調べてみる。基本的な変化は組織内部や自分の顧客に現れることは少ないものだ。そしてそれと同じ理由で、時に高いお金を払って戦略コンサルタントを雇って傍目八目の利を内部化することになる。そして、最終的には変化をとらえて「大胆に慎重に」行動できるか否かが問われている。歴史ある企業ほどそれが難しくなる。がんばれ日本航空!!