それでも道路がほしい本当の理由     

 9月に入ってから、民主党の代議士をテレビで見るたびに腹が立って、テレビを消すことが多くなった。どちらの党を応援してきたわけではない。民主党マニフェストマニフェストというが、全部実行できるわけではないものをマニフェストと呼ぶこと自体が非常識だ。全部実行されたらこの国はなくなってしまう。選挙で自民党が負けたのは、自民党が無様だったからにすぎない。選挙に行く有権者の10%が動けば200議席が移動する制度であることを前提に考えれば、もっと謙虚に話してもいいはずだ。

 私の住んでいる町は、高速道路のインターまで1時間半、脳や心臓の手術ができる救急病院まで山道を1時間ちょっとの距離にある。だから高速道路が無料でも関係ない。必要な道路がまだない。そうした環境に置かれている住民が、この地域だけで15万人いる。我が国の救急医療制度は、おおよそ人口30万人単位の「救急医療圏」に分けていて、その数は365。救急医療はその中で完結するのが基本方針だが、救命センターは全国で210カ所しかない。一つもない医療圏もある。当初、救急病院を人口100万人に1カ所という設置基準で考えていたことが原因だ。しかし救急病院があっても、我々のように、その病院まで30分以内でたどりつくことは到底無理な地域に住んでいる人が数多いのだ。

 都市の人は、「あの病院か、この病院か」と言うが、我々には選択肢がなく、一番近い救急病院までクネクネとした山道を1時間少しかけてたどりつく。数年前から、昼間は救急ヘリを利用できるようになった。しかし夜はどうしようもない。だからトンネルや橋、そして道路がほしい。「新たな市民病院をつくる」と町の政治家はいっているが、250床の市民病院では、新しくなっても、脳や心臓の手術ができるようになるわけではない。赤字も心配だ。先生が集められる保証もない。事情通によると、現在計画中の病院は、本当は手術をする病院への中継病院にすぎないという。今と同じだ。だから病院や道路の話が出てくると切なくなる。「命の値段には差がある」と実感させられる瞬間である。日本全国にはそんな町や村が幾つもある。東北経済連合会だったと思うが、「30分で救急病院まで行けない地域がまだ東北にはこんなにあります」という4センチ四方の広告を数年前に新聞に出した。マスコミやテレビには全く取り上げられなかったが、地方の気持ちが分かった人がまだいるということがわかってうれしかった。

 国会議員の多くは都市部を選挙基盤にしなければ当選できない。有力政治家の地盤を反映し、選挙区の区割りが不自然な地域もある。郡部の意見が反映しにくい仕組みになっている。しかし地元で生活をしている人間は、それなりに病院、道路、学校、そして産業について一体で考えている。だから本来は政治家には、総合的な地域の人間の暮らしや将来に思いが至る人を選びたい。でも都市部にはかなわない。そんな人は立候補してくれない。地方の制度を作るのは国会議員。いくら安全保障論や外交に強くても、地域の利害が計算できない人に、国家の利害も計算できるはずもない。民主党マニフェストは全体の羅列であって統一政策ではないし、地域の統一政策でもない。マニフェストに書いてあることが正しいのではなく、それをもって御用聞きに回れと言いたい。大人の政党として、地域のため人々のために、何ができるか、判断力と説明力を示してほしい。