バカの上塗り スモモモモモモ

 のっけから過激な単語で恐縮だが、最近のニュースを見ていてふとこの言葉が思い浮かんだ。「バカの壁」という養老先生の大ベストセラーを意識したわけではないし、「人間は、結局自分の脳に入ることしか理解できない」という程の「上等な壁」ではないことはハッキリしている。ただ素直にバカという言葉と「恥の上塗り」という言葉が頭の中でくっついてしまった。
1.責任追及の軽さと罪の大きさ 「スモモモモモモモモノウチ」
 2000億円規模の企業年金が消失した問題で国会喚問されている投資顧問の社長の「だますつもりはなかった」という場面が何度も放映されるたびに、何の関係もない身だが実に不愉快だった。法律のことは全く知らないが、どうしてその関係者全員を、刑務所に収監しないのかが不思議だった。3年ほど前からは顧客からの受託資金を本来の投資信託に回さず、解約顧客への支払いに充てていたという。もっと前にはタックスヘブンに設けた自分の会社経由で数億円の収入を抜き取っていたという。
 詐欺なのか、窃盗なのか、特別背任なのかは知らないが、20万円程の窃盗事件の方がはるかに厳しい扱いを受けるのではないか。普通に考えれば、その家族も含めて全財産を没収の上、返済に充てるべきだろう。ぶら下がっていた社会保険庁のOB諸氏も専門性の故に高給を得ていたので、その専門性の故により一層重い刑に服すように制度設計しないと社会はおかしくなる。しかし現実には、刑罰にもグリーン車と三等車両があるらしい。
 秘書が政治資金規正法違反で有罪とされ、強制起訴されていた小沢氏に対し、東京地裁は4月26日、無罪判決を言い渡した。判決は、虚偽記載の事実があったことや小沢氏が報告を受け、了承していたことは認めたものの、共謀は認められないとして無罪を言い渡した。疑わしきは罰せずということなのだろう。
 ふと最近あまり聞かなくなった2つの語句を思い出した。「君子防未然、不處嫌疑間。瓜田不納履、李下不正冠。君子は未然に防ぎ、嫌疑の間(かん)に處(お)らず。瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、李下(りか)に冠(かんむり)を正さず。」「桃李不言下自成蹊。桃李は言わざれども自ずから蹊(こみち)を成す。」
2.メディアの混乱と薀蓄  
 石原都知事尖閣諸島買収発言に対する日本のメディアの反応は想像以上というか想像以下だった。(どっちなのかハッキリしろと自分でも思う。)毎日新聞尖閣近くのマグロ漁師の言葉として「中国を刺激するのは良くない」と論じていた。外交は地方の政治家の仕事ではないとのチャイナ・スクールの元外交官で現在民間の人の意見が同時期に出ていた。
 テレビにでている元政治部長氏の発言にも驚いた。「今まで日本は『領土問題は存在しない、尖閣はあくまで国際的にも歴史的にも明確に日本の領土だ』と言って来たが、中国が今度は逆に海洋法という憲法上の明記をしてきた。教科書でも我々の領土であると。厄介なのはぜんぶ日清戦争にさかのぼって行く。それまではどこの領土でもなかった。沖縄と台湾のどちらかに尖閣があったのだろう。しかし、その沖縄も台湾も植民地になり日本に帰属した。それで日本の領土ということが始まった。これから真正面から領土問題を交渉することを始めざるを得なくなった。今度の問題は世界に領土問題が存在するという事を日本政府の方針と違ってアピールしてしまった。だから中国は物凄く内心ほくそ笑んでいる」と得意になって薀蓄を傾けていたが、それが事実として誤りがある上に、論理自体がかなり変だ。こうした人たちは救い難い。
 日本の領土ならば都が島を買おうが、個人が島を買おうが勝手である。その島が外国から攻められたら日本国が守るのは当然である。中国は勝手に海洋法を作って尖閣諸島は中国の領土だと言い始めたに過ぎない。
 それは戦後のドサクサに紛れて朝鮮の李承晩が竹島を勝手に自分の領土だと言い始めたのと同じである。日本の外交を迷走させた民主党の外交顧問氏は3月に中国と領土問題を抱えるアジアの国に行って、「東シナ海を友愛の海にしよう」という持論を語り、相手の外相に「そんなこと言わない方がいいですよ」とたしなめられたという。
3.沖縄の嵐 隠れた意図
 NHKの歴史番組で琉球王国の特集をみた。仲間由紀恵さんを主人公にしたテンペストという番組の宣伝でもあるらしいが、沖縄独立を推進する隠れた意図をもつ人が作っているようだった。朝貢貿易をもって「琉球王国が中国に従属していた」と述べ、かつて沖縄は独立し貿易をして栄えていたことを強調していた。それは一つの政治的な立場の表明であることに気が付いていないとすれば、放送番組の製作者としては不見識だ。それは大金をかけた大河ドラマで、勝手な歴史解釈と奇異な歴史用語を強調する姿勢と平仄(ひょうそく)が合う。
 公共メディアの番組は固定的な一つの政治的な意見に縛られなければならないなどというつもりはない。共産国家ではないからだ。それだけに制作サイドのバランス感覚が重要になる。テンペストで主張される解釈だけでなく沖縄の歴史には様々な見方があることも同時にきちんと報じられるべきだと思う。
 琉球王国よりずっと前からある沖縄と日本列島のつながり、稲作の伝播の道筋だったこと、仏教伝来前の古神道の在り方を伝える琉球神道と日本の神道との関係、言語としての沖縄方言と日本語との関係、明治初期の大久保利通李鴻章、米国大統領の領土交渉のやり取り、沖縄復帰前の沖縄住民の日本復帰運動のこと、復帰後の沖縄開発に対する佐藤総理の想い、2000年の九州・沖縄サミットを実現した小渕総理の志、米軍基地反対の一坪地主、ハンケチ地主運動の現状と評価、普天間の横にある小学校の移転が阻止されたことの経緯なども同時に報じるべきと思えてならない。
4.再生可能エネルギー買取価格の奇天烈  庶民から現金強奪と電力自由化
 この7月から始まる再生可能エネルギーの買取価格の原案が決まったいう。非住宅用の太陽光発電での買い取り価格は1キロワット時当たり42円だそうだ。国の補助金制度を考慮すると実質48円となるようだ。買い取り価格は10年固定だという。また風力発電では大規模風力で23.1円だそうだ。元々 委員会では、発電所の建設費や運転維持費に利益率6〜8%を上乗せする形を基本に価格や買い取り期間を算定したという。普通の電力のコストが10円以下なのになぜそんな価格を設定するのか奇天烈だ。
 元々の説明では、最初にそういう制度を使って設備を増やせば徐々にコストが下がって競争力ある単価となると言っていたが、そうしたパイロット効果がなければ、庶民からお金を巻き上げるための制度となってしまう。電力を自由化し電力料金を引き下げるという議論とどうつながるのか説明できそうな人はいない。地球温暖化に効果がないことだけははっきりしている。数週間前に2割の電気料金値上げに反対していた知事たちは、単価が4−5倍の電力買取になぜか賛成しているという。
 ある人に言わせると、日本の鉄鋼業と電力会社の経営を比較するべきだという。その製品の生産方法が似ているからだ。原料を輸入して、鉄を作り、発電している。ともに巨大な会社であることは間違いがない。鉄鋼製品は国際価格で品質も良いのに、日本の電気代はアメリカのほぼ2倍だ。需要をみると日本は人口は集中していて電力の需要も集中していて送電は距離が短い。発電機、電線、碍子、高圧スイッチ、変電装置など日本の電力関連の設備技術は最高水準だ。ダメなのは、地域独占を前提にした電力会社のビジネスモデルだという。
 皇居の周りにもそれに似たビジネスモデルをもつ産業があることに気が付いた。中には隠れたヒット商品を出しているところもあるようだ。ちょっと前に、ある研究所で東京電力をいくつかに分けて競争を活発にすれば、日本の電力料金はかなり下がるという勇気ある本を出版していたが、どういうわけか、今ではもう絶版とされている。そのため、その本の中古本は今ではかなり高値で取引されている。何冊か買っておくべきだった。
5.灯台下暗し チェルノブイリ原発稼働は東北から
 昨年来、時々、チェルノブイリ原子力災害のことが特集される。よっぽどウクライナキエフに名物のカツレツを食べに行きたい人が多いのだと思っていたが、どうも違うらしい。チェルノブイリの災害の後の放射線障害のケアを全面的にサポートしたのは笹川さんを中心とした日本財団の人たちであり、現地の人からも一番感謝されていることを知らない人が多いようだ。彼らのサポートのもとで、広島や長崎のお医者さんたちが大活躍したことはもっとちゃんと報じられるべきだと思う。
 今月、見聞きしたなかで感動した記事が一つある。それは町田徹さんが書かれた東北電力原子力発電所の取材と主張だ。4月3日に次のWEBサイトに掲載されていた。まだ全文が公開されていればよいと思う。http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32200 
 その要旨を自分なりにまとめてみた。
 東日本大震災に襲われながら、深刻な事故を招かなかったばかりか、3ヵ月にわたって364人の被災者の避難所の役割を果たした強固な原発がある。東北電力女川原子力発電所だ。政府はこのところ、強引に、大飯原発や愛媛の伊方原発の運転を再開しようと躍起だが、例外かつ緊急的に1つだけ、原発の運転再開を認めざるを得ないとしたら、強固な女川原発にルーツを持つ東北電力の最新型原発である東通原発ではないかというのが彼の主張だ。
 多くの国民は、福島原発事故を機に、これまでのように原発への依存度を拡大するエネルギー戦略と決別したいと考えているはずだ。だとすれば、運転再開にあたって重要な基準は、安全性はもちろん、その原発がその地域の電力の安定供給の観点から見て、本当に必要かどうかというポイントのはずである。
(筆者補足;そして、何よりその組織を運営している人たちへの信頼がポイントになる。現時点では、東電本社も民主党内閣も国民からはあまり信頼されてはいない。)
 東北電力東通原発の地元、青森県下北郡基礎自治体では、東通原発へのアレルギーはほとんどなく信用されている。対岸の函館に丁寧な説明を行い、理解を得ることは、大飯や伊方の再開強行より遥かに現実的なはずである。繰り返すが、東通は明らかに復興のために必要だ。しかも、東通原発の営業運転は2005年7月と、東北電力原発の中では最新鋭だ。東日本大震災に堪えた女川原発に技術と人のルーツに持って、「女川のノウハウをすべて注ぎ込んである」と東北電力が胸を張る東通こそ、最優先で緊急の運転再開を認めるべき原発のはずである。
 その言や良し。「頑張れ町田さん、頑張れ東北電力」と言いたくなった。