公的教育の将来 教育委員会と学校

 大阪の教育条例は教員の人事、懲戒、分限処分のところが修正され、保護者や生徒からクレーム等問題が出た教師について教育委員会が判断して懲戒・分限処分できると修正されて、法律的には問題がなくなったとのことだ。個人的には、きちんと教員免許の更新制度を運用すれば、誰が見ても変な先生はやめてもらうことができるという意見に賛成であり、それが実践的だと思う。
 本来、公務員に禁じられている活動はすべきでないし、児童生徒に自分の思想信条を唱導することは問題があると思う。民間の仕事でも国旗や国歌対する一般的な尊重は、普通の礼儀態度として要求されても全く不思議ではないと思う。その上で、教育本来の目的に対していかに貢献したかが、公的教育の運営にあたる教育委員会と学校の現場に求められている。それらの活動業績が評価されてフィードバックされて改善していく道筋が明らかになることが重要だ。労働組合が人事に介入する事例は民間にもあるが、業績は一般的に低迷し、結果的に経営自体が刷新されることによって、長期には是正される。大阪は、現在そうした是正のプロセスが始まったとも解することができる。
 行政学の視点から見ると、大阪「都政」論には様々な議論の広がりがある。しかし制度改革の論理的な意味での最初の出発点があまり知られてないと思われる。一人あたりの行政経費は人口30−40万人規模の街が最も安い。日本の全人口を40万人で割ってみると、現在その修正が議論されている選挙制度の300小選挙区制の300になる。それより多くても少なくても過密と過疎のコストがかかり、基礎的自治体の規模は30−40万人が良いという考え方だ。だから全国基礎的な自治体の数を300−400とおいて考えるのが合理的だ。市町村の合併や分割をするというよりも、そうした単位で統計を取り、計画をまとめていくべきだという考え方を、市町村でも府県でもないという意味で「カウンティ統計制度」と勝手に名付けている。交通インフラ、産業政策、河川水利の管理は、基礎的自治体の集合体である現在の府県よりも大きい単位の道州の方が適当だというのが「道州制」の考え方だが、京都府兵庫県を今議論に巻き込むと、問題が複雑になり過ぎるために暫定的に大阪「都政」論を唱えていると思う。
 教育の議論が今までなかなか収束しなかったのは、市町村や都道府県の教育員会の規模、実力が実に様々で、日教組の活動も色々だったからだと思えてならない。小さな市町村に教育を任せると、例外はあるが、財政力が弱すぎたり、特定の政治的グループの意見に偏りすぎたりして、教育の中立性と安定性が阻害される心配があった。しかし心配し過ぎると結果として文部省や、府県の教育委員会の意向が強く働いて、分権化が進まなかった。そのため、やる気のある市長さんほど、教育にも問題意識が強く、「教育委員会など廃止して俺にやらせろ、高校もやりたい。」ということが、過去にもあるし大阪でも起こっていると考えられる。行政の規模が統一されると、全体としての公的教育の在り方についての議論は大幅に単純化できると思う。
 その上で、教育行政の将来像を考えると、4つのタイプがある。(1)現在制度を強化して教育委員会の専門性を高めて活性化する(2)一般行政のなかに統合する(3)教育バウチャー制度を導入し保護者と生徒が学校を選ぶ(市場型への移行)という3つの考え方に加えて、それらの中から、(4)地域の実情に合わせて、制度を選べるようにするという考え方だ。
 いづれにも、もっともだと頷ける理由はあるものの、制度設計以上に運営実態が重要になるとみる人もいる。教員免許の更新制度も「きちんと」運営されなければ役に立たないからだ。民間の企業の人事組織論や経営管理の観点からみると、制度だけ論じていると、株式会社が良いか、事業組合が良いか、個人商店が良いかをいつまでも論じているようなこととなってしまう。そのため、もう少しバリューチェーンという観点から公的教育の本来の目的の追求したらどうだということになる。
 経営学にバランスト・スコアカードという考え方がある。ハーバードビジネススクールキャプラン教授とコンサルタントノートン氏によって提唱された考え方だ。この考え方を使って、教育基本法に定められたビジョンを実現可能な目標に翻訳し、個々の実態や業績とリンクさせて、計画を立案してみたらどうかということになる。
 一般の企業との比較で考えると、公的教育の仕組みは、「全国規模のフランチャイズ・チェーン」の運営に似ている。フランチャイズ本部が文部省。県の教育委員会が地域本部。市町村がフランチャイジーで、教育長が、地域サービス会社の教育サービス部門が分社化されている会社の社長。市町村の教育委員会事務局は、その会社の人事総務部。個別の小学校や中学校が営業店で、校長先生が店長支店長と考えることができる。営業店には大きなものも小さなものもあり、市町村の教育委員会の委員は、その教育サービス部門の監査役あるいは社外取締役に位置づけられる。
 教育委員会事務局は会社の人事総務部で、個々の学校が、営業店や支店と考えられるわけだ。顧客サービスと付加価値の創造は学校現場で行われる。人事マネージメントは人事総務部(ここでは教育委員会事務局のこと)で行われるのではなくて、人事総務部が起案した仕組みをベースにラインの学校現場との協働作業となる。そう考えることによって、教育の世界が、次第に、政治的な論争のテーマから、「子供をより良く教育するために何が必要か」という議論に焦点を当てていくことが可能になるのではないかと思われてならない。