日韓関係ノート 感謝と慰労のための官房長官談話を

1.ジェットコースターに乗る日韓関係
 日本語と英語の「(朝鮮)半島問題」の文献を読みだして、もう数年になる。流行に左右される方ではないが、韓流ブーム全盛時代が来たと思ったら、あっという間に大「嫌韓」時代となった。嫌韓本に対する批判もあるが、題名はともかくも中身は韓国事情であり、大部分は事実に基づいたものだ。感情に訴えかける本ではない。そうした本が多く売れることは、日本人なりに、自国と韓国の来し方、行く末を見つめなおして来た言っても良いのではないか。ただここ1-2年ほど、もっとも気になっていることは、韓国が大好きで事実を知りながら政治から距離を置き表面的には今まで決して韓国を批判しなかった尊敬すべき日本の韓国学者が、韓国に対し批判的になっていることだ。韓国は最もコアな支持者を失ったと思う。
 安倍内閣となって日韓関係が悪化したという人もいるが、事実は異なる。鳩山内閣が終わり菅政権となって、当時の李明博大統領が鳩山前首相との面談で「日韓両国は地球上で最も良好な2国間関係を築ける」と発言したのは2010年9月だった。それから1年経って、2011年10月の韓国での日韓首脳会談においてウォン急落が懸念される韓国から依頼されて、野田首相率いる民主党政権は通貨スワップ枠を130億ドルから700億ドルに拡大した。ところが2011年12月に訪日した李明博大統領は、日韓首脳会談で野田首相に「慰安婦問題について韓国の求める誠意を示さない限り、駐韓日本大使館正面の少女慰安婦と称する像が各地に建立がなされる」と述べた。暮れも押し詰まった京都迎賓館で、テレビに映る野田首相のぶすっとした顔が一層ぶすっと見えた。そして翌年の2012年8月10日に李明博大統領が竹島に上陸し、さらに8月14日に「天皇(日王)が韓国に来たければ独立運動家に謝罪せよ」と言うに及んで日本国民の多くが驚き、それ以降、日韓関係が急速に悪化した。そして嫌韓本が売れるようになった。
 事実として、民主党政権時代は、なんら中国や韓国に対してきちんとした反論をしたことはなかったし、保守派から見れば、理不尽と思える彼らの要求を受け入れてきた。首相官邸や議長公邸に、中国、韓国の大使館員が数多く出入りしていたこと自体が、とても異様だった。役所が上げてくる極秘情報が中韓の大使館に翌日漏れていたという。安倍内閣となって特定秘密保護法が制定された本当の原因はそのことにあった。民主党の国会議員にはその主義主張からみて、日本の国籍を取得しているものの、中国、韓国のエージェントと考えられる人がいると公然に語られだしたことは驚きだった。中国、韓国から、あまりにも日本は軽く見られていた。その危機感によって2012年9月の自民党総裁選挙で安倍晋三総裁が奇跡的に誕生し、総選挙で地滑り的勝利を得て12月に安倍内閣が成立した。「日本を取り戻そう」というキャッチフレーズがとても新鮮に感じられた。
 通貨スワップについては、その後の韓国側の延長希望がないため、今は2015年2月を期限とする100億ドルを残すばかりとなっている。2014年12月からは中国の人民元とウォンの直接取引が始まるという。APECが開かれている北京では、韓国と中国の自由貿易協定(FTA)が妥結したという。ただ懸案だった自動車分野は除外されたという。それで意味があるかないかは別として、韓国の意図は、韓中FTAが締結されればアジア太平洋地域の地域経済統合議論を加速したいとの意思があるという。韓国経済はこれで名実ともに、中国の影響下に入った。米国は、戦時作戦統制権の返還が無期限に延期したことによって、米軍が残るという形となったが、まだ中国と韓国をコントロールしているつもりなのだろうか。
 韓国の朴槿恵大統領は、相変わらず、慰安婦問題の前進なくして日本との首脳会談はしないという。しかし朝日新聞誤報訂正事件を切っ掛けに、保守派だけでなく、多くの日本人が慰安婦問題の虚構に気が付いてしまった。そして韓国大統領による発言を、事実に基づかないヘイトスピーチだと感じている。かつてのように、政治家が安易に韓国に謝罪すれば日本国内で非難を浴びることになるだろう。日韓議連の国会議員だけが日本人だと思ったら大間違いだ。
2.春畝山博文寺
 1909年10月26日、その年の6月に統監を辞め、枢密院議長となっていた伊藤博文がロシア蔵相と満州・朝鮮問題について非公式に話し合うため吉林省ハルビンに到着したところを、無名の韓国人が射殺した。その衝撃は日韓のみならず、世界に走った。特に韓国の高宗皇帝は、何も判っていない暴挙として激怒したという。韓国人は伊藤統監は本当に韓国の為を思って働いてくれたと悼み、韓国各地で追悼慰霊祭が営まれた。やがてソウルに広大な春畝山博文寺が建立されたが、戦後、博文寺は壊され、伊藤博文は韓国侵略の元凶となった。そして2014年1月、ハルビン駅に安重根記念館が出来た。
3.大東亜戦争を共に戦った人々への感謝と慰労のための官房長官談話を
 日本統治下の朝鮮半島に徴兵制がなかった。志願兵の募集には、最大50倍の志願者が殺到し、当時の憲兵隊の受付は問合せの電話と志願者の応対で他の仕事をすることができなかったという。延べ24万2000人が志願し、2万1000人が戦死し英霊として靖国神社にまつられている。兵士以外の民間人は、ほとんどは企業などの募集であり、国民徴用令による強制的な徴用は245人だった。慰安婦は民間の売春婦であり、二等兵の20倍以上の賃金をもらいながら戦地を転々として兵士に随行した。「独立のための抗日戦争を闘い、勝利して独立した」というのが彼らの公式見解だがそうした事実はない。それが日韓の間にある「歴史問題」の本質である。
 だから日本がすべきは謝罪ではなくて「感謝と慰労」だというのが黒田勝弘氏の考え方だ。韓国では今も志願兵の存在は隠されている。歴史を清算し日韓が正しい歴史にもとづいて和解するために「日本のために戦っていただいた朝鮮の軍人・軍属のみなさんに感謝する」という新しい官房長官談話を出してもいいのではないかという。韓国の人は反発するだろうが、今以上に日韓関係が悪くなることはなく、正しい歴史認識こそが両国関係改善のきっかけだからである。 私は黒田さんの意見に賛成だ。