17条憲法を読む

 英国には憲法がない。体系的な憲法をつくらず、議会の決議や裁判所の判例、国際条約などをから、国家に関するものを英国の憲法に相当するものとして扱う。英国では、1215年のマグナ・カルタから始まるらしい。「長く国民の生活を律してきた伝統および常識こそが法」というエドマンド・バークが生まれた国である。
 そうだとすると、日本では604年の聖徳太子の17条憲法を読むことから始めなければならない。自分は冒頭の3条をなんとなく思い出すのがやっとだった。改めてこれを読むと、実に面白い。経営学の教科書を読むようだ。17条毎に名称を付けてみた。

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一 和をもって貴しとなす Harmony should be valued
 和をなによりも大切なものとし、いさかいをおこさぬことを根本とせよ。人はグループをつくりたがり、悟った人格者は少ない。そのため君主や父親のいうことにしたがわなかったり、近隣の人たちともうまくいかない。しかし上の者も下の者も協調・親睦の気持ちをもって論議するなら、ものごとの道理にかない、どんなことも結論が決まる。

二 三宝  Respect the three treasures
 あつく三宝を大事にしろ。三宝とは仏・法理・僧侶のことだ。それは生命ある者の最後のよりどころであり、すべての国の究極の規範である。どんな世の中でも、いかなる人でも、この法理を大事すべきだ。人間には、はなはだしく悪い者は少ない。よく教えるならば正道にしたがう。その為には仏の教えに帰依しなければ心をただせない。

三 詔(みことのり) Obey an imperial order certainly
 天皇の命令をうけたならば、かならず謹んでそれにしたがえ。君主はいわば天であり、臣下は地にあたる。天が地をおおい、地が天をのせている。かくして四季がただしく巡りゆき、万物の気がかよう。逆に地が天をおおうとすれば、こうしたととのった秩序が破壊されてしまう。君主がいうことに臣下はしたがえ。上の者が行うことに、下の者はならうものだ。だから天皇の命令をうけたならば、かならず謹んでそれにしたがえ。謹んでしたがわなければ、やがて国家社会の和は自滅してゆくことだろう。

四 礼の精神  Be based on courtesy
 政府高官と職員は、礼の精神を根本に持たなければならない。国民をおさめる基本は、礼にある。上が礼法にかなっていないときは下の秩序はみだれ、下の者が礼法にかなわなければ、かならず罪をおかす者が出てくる。群臣たちに礼法がたもたれているときは社会の秩序もみだれず、国民に礼があれば国全体として自然におさまるものだ。

五 賄賂の禁止 Prohibit the officers from receiving bribes
 官吏たちは饗応や財物への欲望をすて、訴訟を厳正に審査しろ。庶民の訴えは、1日に1000件もある。1日でもそうなら、年を重ねたらどうなろうか。このごろの訴訟にたずさわる者たちは、賄賂をえることが常識となり、賄賂をみてからその申し立てを聞いている。すなわち裕福な者の訴えは石を水中になげこむように、たやすくうけいれられるのに、貧乏な者の訴えは水を石になげこむようなもので容易に聞きいれてもらえない。このため貧乏な者たちはどうしたら良いかわからない。そうしたことは官吏としての道に背くことである。

六 勧善懲悪 Encourage the good and punish the evil
 悪をこらしめて善をすすめるのは、古くからのよいしきたりだ。善行は隠すことなくく、悪行をみたら必ずただせ。へつらいあざむく者は、国家をくつがえすものであり、国民をほろぼす剣である。また媚びへつらう者は、上には下の者の過失をいいつけ、下にむかうと上の者の過失を誹謗するものだ。彼らは君主に忠義心がなく、国民に対する仁徳をもっていない。それは国家の大乱のもとである。

七 適材適所 A wise person must be appointed suitable job
 人にはそれぞれの任務がある。職務内容を忠実に履行し、権限を乱用してはならない。賢明な人物が任にあるときは賞賛する声がおこる。よこしまな者がその任につけば、災いや戦乱が充満する。世の中には、生まれながらにすべてを知りつくしている人はまれで、よくよく心がけて聖人になっていく。事柄の大小にかかわらず、適任の人を得られればかならずおさまる。時代の動きの緩急に関係なく、賢者が出れば豊かにのびやかな世の中になる。これによって国家は長く命脈をたもち、あやうくならない。だから、いにしえの聖王は官職に適した人をもとめるが、人のために官職をもうけたりはしなかった。

八 勤勉 Come to the office early in the morning and must work till late.
 官吏たちは早くから出仕し、夕方おそくなってから退出しなさい。公務はうかうかできないものだ。一日かけてもすべて終えてしまうことがむずかしい。おそく出仕したのでは緊急の用に間にあわないし、はやく退出したのではかならず仕事をし残してしまう。

九 真心 Faith is the foundation of justice
 真心は人の道の根本である。何事にも真心がなければいけない。事の善し悪しや成否は、すべて真心のあるなしにかかっている。官吏たちに真心があるならば、何事も達成できるだろう。群臣に真心がないなら、どんなこともみな失敗するだろう。

十 我ら凡人 All of us are mediocre people
 心の中の憤りをなくし、憤りを表情にださぬようにし、他の人が自分と異なったことをしても怒ってはならない。人それぞれに考えがあり、それぞれに自分がこれだと思うことがある。相手がこれこそといっても自分は良くないと思うし、自分がこれこそと思っても相手は良くないト思うものだ。自分はかならず聖人で、相手がかならず愚かだというわけではない。皆ともに凡人なのだ。そもそもこれが良いとかよくないとか、誰が定めうるのだろう。お互い誰も賢くもあり愚かでもある。それは耳輪には端がないようなものだ。こういうわけで、相手がいきどおっていたら、むしろ自分に間違いがあるのではないかとおそれなさい。自分ではこれだと思っても、みんなの意見にしたがって行動しなさい。

十一 信賞必罰  Make clear rewards and punishments with responsibility
 官吏たちの功績・過失をよくみて、それにみあう賞罰をかならずおこないなさい。近頃の褒賞はかならずしも功績によらず、懲罰は罪によらない。指導的な立場で政務にあたっている官吏たちは、賞罰を適正かつ明確におこなうべきだ。

十二 法定徴税主義 Don't impose a tax except official taxes
 国司、国造は勝手に国民から税をとってはならない。国に2人の君主はなく、国民にとって2人の主人などいない。国内のすべての国民にとって、天皇だけが主人である。役所の官吏は任命されて政務にあたっているのであって、みな臣下である。どうして公的な徴税といっしょに、国民から私的な徴税をしてよいものか。

十三 職掌熟知 Understand all your duties fully
 いろいろな官職に任じられた者たちは、前任者と同じように職掌を熟知するようにしなさい。病気や出張などで職務にいない場合もあろう。しかし政務をとれるときにはなじんで、前々より熟知していたかのようにしなさい。前のことなどは自分は知らないといって、公務を停滞させてはならない。

十四 嫉妬は厳禁 Don't envy the others for their intelligence and talent
 官吏たちは、嫉妬の気持ちをもってはならない。自分が嫉妬すれば、相手もまた自分を嫉妬する。嫉妬の憂いははてしない。自分より英知がすぐれている人がいることをよろこばず、才能がまさっていると思えば嫉妬する。それでは500年たっても賢者にあうことはできず、1000年に1人の聖人の出現を期待することは困難である。聖人・賢者といわれる優れた人材がなくては国をおさめることはできない。

十五 私心を去る Concentrate on official duties without one's own desire
 私心をすてて公務にむかうのは、臣たるものの道である。およそ人に私心があるとき、恨みの心がおきる。恨みがあれば、かならず不和が生じる。不和になれば私心で公務をとることとなり、結果としては公務の妨げをなす。恨みの心がおこってくれば、制度や法律をやぶる人も出てくる。第一条で「上の者も下の者も協調して親睦の気持ちをもって論議しなさい」といっているのは、こういう心情からだ。

十六 適時動員 Employ the people for public duties at better seasons.
 国民を使役するにはその時期をよく考えろというのは、昔の人の良い教えである。だから冬に暇があるときに、国民を動員すればよい。春から秋までは、農耕・養蚕などに力をつくすべきときである。国民を使役してはいけない。国民が農耕をしなければ何を食べていけばよいのか。養蚕がなされなければ、何を着たらよいというのか。

十七 独断を禁ず Discuss with others when you make an important decision
 物事はひとりで判断してはいけない。かならずみんなで論議して判断しなさい。些細なことは、かならずしもみんなで論議しなくてもよい。ただ重大な事柄を論議するときは、判断をあやまることもあるかもしれない。皆で検討すれば、道理にかなう結論がえられよう。

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 1400年以上前の憲法だが、今も新鮮であることに驚かされる。