内外情勢 2013年3月 

  (1)TPP参加表明 
  (2)東アジア情勢と反日宣伝
  (3)メタンハイドレートの掘削
  (4)雲南省の干ばつ 
  (5)南沙諸島で起きていること
  (6)ミリタリーバランスの悪化懸念
  (7)武力衝突の事例
  (8)ありそうなシナリオと対応
(1)TPP参加表明
 安倍首相が3月15日の夕方、TPP交渉への参加を表明された。食べてみなければ何が入っているか判らない「闇なべ」条約なので、反対派、慎重派は依然として懐疑的だが、交渉には参加せざるを得ないということなのだろう。もっとも強硬な反対派を数多く抱えている自民党の了解を何とか取り付けた。利害得失、賛否はともかくとして、首相の姿勢とリーダーシップを信じるしかないというのが多くの国民の思いだと思う。
 かつて谷沢永一さんが「古来、軍事力と政治力に後押しされないで自由通商の栄えた地域があったろうか」という印象的な言葉で評した塩野七生さんの代表作「海の都の物語」のヴェネチア商人の物語を思い出した。アベノミクスが太平洋という地中海で、日本を復活させるのかどうかは、国民一人ひとりの生き様にかかっているのだろう。
(2)東アジア情勢と反日宣伝
 北朝鮮は米韓軍事演習と国連制裁決議に対する反発は尋常ではない。米国の巡航ミサイル原子力潜水艦が、来月以降も朝鮮半島周辺に残留すると報じている。中国では全人代が終わり、国家主席と首相が指名され、名実ともに新体制のスタートとなった。中国は北朝鮮に厳しい態度をとることによって、米国の信頼を回復し、日米離間を狙っているようだ。米国における中国、韓国の反日宣伝にはお金がかかっている。
 韓国の反日活動も政府に及んでいるというのが最近起きている事象である。韓国の外相は、日本との関係について「傷というものを取り上げることにしないことは、韓日関係の発展に非常に大事だ」と述べるものの、最も大事なことは、どのようにして信頼関係を築き上げるかで、日本に対し自国の歴史をもっと勉強しろと言うのだから呆れる。彼らは歴史を知らないのだ。その言葉をそのまま進呈しよう。事実に反することを言われたときの日本国民の怒りに気がついていないようだ。これでは日韓関係は改善しない。対馬を韓国の領土であると主張したり、盗んだ仏像を返さなかったり、嘘を公然と言いふらす。韓国人売春婦が非難されると数十年前の捏造された慰安婦問題で騒ぎ出す。誰だって韓国が嫌いになる。
(3)メタンハイドレートの掘削
 海外では日本のメタンハイドレートの掘削に対するニュースの反響が大きいようだ。シェールガス革命の喧伝されている影響もあるのだろう。技術やコスト問題があるが、5年後の商業化を目指すという。メタンをそのまま大気に放出しない技術も重要だ。世界全体のメタンハイドレード埋蔵量は原油埋蔵量の2倍とも推定されている。米国シェブロンはメキシコ湾、英国BP社はアラスカで調査を行い、インドや韓国も商業利用を目指している。
 日本の周辺海域はメタンハイドレートの宝庫で、100年分には止まらないとの見方もある。プレートの境界線で生成しやすい性質から地震多発国の海底に埋蔵される傾向が高いため、日本は世界有数の“メタンハイドレート大国”とみられている。経産省の試算は、主に太平洋のメタンハイドレートの埋蔵量で日本海側は含まれていない。日本海側のメタンハイドレートは表層型といい、海底に塊となって露出している。太平洋側は取ったら終わりだが、表層型は海底からメタンハイドレートの柱が立っていて、粒々が毎日、作り出され、溶け出している。日本海側の調査・開発は遅れている。北方領土竹島尖閣諸島周辺でもメタンハイドレートがあるので厄介だ。
(4)雲南省の干ばつ 
 やはり今年も、中国南西部の雲南省が大規模な干ばつに見舞われているという。干ばつの被災者は497万人、そのうちの144万人、80万頭の家畜に十分な飲用水を供給することができない。農作物の被災面積は54万ヘクタールのうち、25万ヘクタールの農地は深刻な干ばつに見舞われ、収穫不可能な農地面積は5.5万ヘクタールに達した。省内の134の河川は枯渇し、138箇所の小型ダムの水はほぼ無くなった。これまでの4年間、高温少雨の天候が続いたことが原因だという。今年1-2月の平均降水量は前年よりさらに64%減少し、13.4ミリだった。日本で豪雨や豪雪が起これば、大陸でも当然気候変動が起きている。アジアの大河は大丈夫だろうか。
(5)南沙諸島で起きていること  
 2013年3月12日の産経新聞の報道によれば、6カ国と地域が領有権を主張する南シナ海南沙諸島海域で、中国の漁業監視当局が大・中型船艇21隻、要員3千人あまりを動員する物量作戦で、監視活動を「常態化」させたようだ。
 中国政府は「海洋強国」の実現を支える新たな柱として、海洋監視部門を統合して警察権を付与した「中国海警局」の設立方針を10日に表明した。係争水域での監視の「常態化」は新部門の発足を前に中国の実効支配を強めた格好であり、沖縄県尖閣諸島周辺でも同様の動きが予想される。
 中国のやり方は、不当な領有権主張を始めた後に、不当に領有権を主張する係争海域への、漁船の乗り入れを始め、漁業者を保護するという口実のもとに、軍艦の色を塗り替えただけの漁業監視船が大挙して押し寄せる。今回もこのパターンだ。中国の漁船は係争海域での操業を装いながら、古い食器や生活用品を海洋投棄し、歴史的に中国人が生活していたという歴史証拠の捏造を図る。証拠捏造工作のあとは、タイミングを見計らって海洋調査を行い、捏造した証拠を引き上げて、歴史的証拠が見つかったと、世界中で宣伝を始めるというものである。
(6)ミリタリーバランスの悪化懸念
 来年度の中国の軍事予算も2桁を越える伸びだった。先頃、英国際戦略研究所(IISS)は、世界の軍事情勢をまとめた年鑑「ミリタリー・バランス」(2013年度版)を発表し、沖縄県尖閣諸島を含む東シナ海などでの領海をめぐる緊張の高まりが、中国の増大する影響力への懸念につながっていると指摘した。
 年鑑はこの中で、中国初の空母「遼寧」の就役(12年9月)が「周辺国との領海争いで重要な軍事的意味を持つ」と強調する中国側のコメントを紹介。その上で、遼寧は本格的に活動を開始するまでにさらに数年を要するものの、航空機の発着訓練の様子などから「空母の持つ性能を高めていこうという中国の意図は明白」と分析しているという。
 また尖閣諸島周辺での中国側の動きを受け、「中国が尖閣諸島を占拠するのではないかとの懸念が浮上した」と記述。「日本の政策担当者は南シナ海で東南アジア諸国をどう喝する中国の試みを強い関心を持って見守り、同様の事態が日本に起きないよう懸命になっている」とした。
 北朝鮮に関して年鑑は、核兵器4〜12個分のプルトニウムの貯蔵があるほか、1600キロ圏内が射程に入る短・中距離弾道ミサイルを多数保有しているとの見方を示した。つまり日本はこの多数あるミサイルの射程に入っている。さらに、北朝鮮化学兵器の貯蔵量は世界で3番目だと強調している。これも要注意だろう。
 この3月にAEIのセミナーで、中国海洋戦略の研究で米国での権威とされる米海軍大学のトシ・ヨシハラ教授が、沖縄県尖閣諸島をめぐる日本と中国の対立に関して、中国側がミサイルや潜水艦の戦力で急速に優位に立ちつつあると警告したようだ。
 ①中国の空と海からの対艦ミサイルの増強が有事の日本側の対応を弱体化させ始めた。
 ②中国の日本側の米軍基地を標的とする地上発射の中距離ミサイル網が着実に増強され、日本側の抑止を弱め始めた。
 ③中国が新型の攻撃型潜水艦の建造ペースを速め、日本側が優位に立ってきた対潜能力の効果を侵食している。2010年までの10年間に攻撃型潜水艦の数を6倍に増やした。
 ④中国は準軍事力と呼べる海洋監視の諸艦船を増強し尖閣周辺では日本側領海への侵入を増している。この活動拡大がすでに日本側の海上保安庁海上自衛隊を疲弊させ始めた。
 教授は、こうした傾向が続くと将来的には、尖閣をめぐる日中の軍事バランスは顕著に中国に有利に動き、中国の軍事力行使への意欲を増す結果を呼ぶため、日本が防衛のための海洋戦力増強すべきと提言した。
 同時に中国軍が尖閣海域など西太平洋で日米側との海上戦闘を始める場合、大型艦艇はみな、いくつかの海峡を通過しなければならないため、実際の軍事作戦ではその地理的な特徴が日米に有利な条件を生む。つまり通常戦力において海軍力の増強が必要になっている。
 逆にこのまま中国海軍が増強を続けると、いずれ4つの海峡を同時に封鎖する能力を持つという。対馬海峡津軽海峡宗谷海峡、大隈海峡だという。既に前の2つを同時に封鎖することは可能だという。これで日本の第一列島線の北側の封鎖が可能になる。その前に日本としては領海法を整備して12海里を宣言しなければならないという。個人的には、この4海峡を押さえるのはロシア海軍対策であり、日本封鎖ならば、バシー海峡宮古海峡ではないかという気がしている。
 米国経済を立て直すためには米国は軍事費を削減しなければならない。したがってその分も加えて、日本は自国を守るために普通の国と同じように、防衛費をGDP比2-3%とするしかない。そうなれば隣の国から言い掛りをつけられることもなくならない。
(7)武力衝突の事例
 識者に言わせると、尖閣諸島の防衛を考える上で、フォークランド諸島紛争の研究が参考になるという。その教訓で自分が読み取ったのは、尖閣諸島だけではなくて南西諸島全体の守りを固めよということである。
 もう一つ事例があるのではないか。ベトナムとの戦争である。1979年に中国とベトナムがぶつかった中越戦争も興味深い。ベトナムはそのときは中国を退けたものの、その後数年にわたってしつこく国境紛争を起こされている。懲りない国を相手にしていると、やはり大変だ。中越戦争は1979年2月17日から3月16日までの間、に中国とベトナムの間で行なわれた。大量虐殺で知られるカンボジアポル・ポト政権をベトナムは侵攻して倒している間に、中国がベトナムを懲罰するとして起こした戦争である。しかし経験と装備に優れたベトナム軍にやられ、多大な損害を出して、中国は1か月足らずで撤退した。
 ポル・ポト政権の後ろ盾は中国だった。ベトナムが中国の反ソ政策に同調しなかったことも開戦理由とされる。中国にしてみれば、ベトナム戦争で中国が支援したのに、中国の武器でポル・ポト政権を崩壊させたことは裏切り行為だという。統一ベトナム成立後の社会主義化政策で旧南ベトナム地域の経済を握っていた華僑資本を圧迫したことも要因の一つだという。あのボートピープルはもともと中国系だったのだ。ベトナムにしてみれば、国境問題とカンボジア領内のベトナム系住民への迫害、繰り返される小規模の挑発は看過できなかった。中国が攻撃を始めたとき、ベトナム軍主力はカンボジアにあったが、ベトナム民兵は精鋭だった。更にカンボジアに行っていたベトナム軍主力が引き返し、軍事衝突をする段になって野戦軍のさらなる被害増大と占領地の維持が危うくなることから、中国中央軍事委員会は中国軍に対して翌日の3月6日からの撤退を命じた。この戦争の後、中国において軍の近代化が最優先の国家目標とされることとなったという。
 実はこの中越戦争が終わった後に何度か武力衝突があり、そちらの方が尖閣諸島のモデルに近いのではないか。防衛はやり遂げたもののベトナムから見れば、相手側の基地を攻撃したわけではない。戦争後の中越関係はその後も改善せず、1984年の両山戦役や赤瓜礁海戦などが引き起こされた。
核武装国は、核武装国と全面的な戦闘にエスカレーションはできない。だから戦闘では勝っても、相手の国にまで反撃すべきではないという原則が働いていたのではないか。それは今後の研究課題でもある。勝ったとしてもどこまで追いかけるかということが大事なのかもしれない。最終的に、相手方の核武装による脅しを避けるためにはやはりこちらも核武装するしかなくなるのではないだろうか。
 中国の権力構造においては軍を誰が握るかポイントである。中国の戦争は国内政治であるために、負けたままでいるわけにはいかない。戦争には勝っても、その後の衝突で敗れたベトナムは、中国にとって有利な条件での国境線画定を余儀なくされた。結局、中国の支配地域が増すこととなった。防衛線は長丁場なのである。西沙諸島および南沙諸島の領有権を巡って領土問題は残されており、近年も双方の武装船が相手方漁船を銃撃する事件がたびたび起こっている。
(8)ありそうなシナリオと対応
 このベトナムとの2回目以降の戦争が、訒小平が軍への支配権を固めた戦争である。当然ながら米国が介入するような全面戦争ではないのである。訒小平は国内的にこの軍事的処理を大宣伝して軍の支配権を固めた。党が軍に対する統制権を確立するためには、戦争をするしか手がないと考えられているようだ。攻められる方は迷惑だ。
 尖閣諸島かどうか、南シナ海かは別として、習近平は必ず戦争をするという。もし軍を握ろうとすればそうするというのが宮崎正弘さん、石平さんの見方だった。(「2013年の中国を予測する」WAC、2012年9月)だから、そのことに備えて中国の周囲の国々と連携してことに当たること、武器を供与することは日本とアジアの安全につながる。武器輸出3原則の廃止がアジアの平和を高める状況が産まれている。
 限定的な武力衝突の場合、どんなに空軍力、海軍力に優れて相手方に勝ったところで、相手方に致命傷を与えることにはならないのではないか。その後も絶えず防衛ラインを維持しなければならないのである。そうだとすれば個々の島々には先に自衛隊の守備隊を配置しても守った方が良いのではないか。防衛戦争は軍事拠点を築いて防衛に徹しなければいけないのではないか。その上で制海権、制空権があれば、相手側は大部隊を上陸させることはできない。ゲリラ部隊や民間人に扮装した軍人の上陸が予想されるのではないか。そしてエスカレーションを抑えるためには戦略原潜を数隻持つ必要があるのではないか。それがこの防衛戦争を戦う上での現在の見方である。
 はたして武力衝突は尖閣諸島だけで起きるのだろうか。桜チャンネルの水島総さんの想定は、映画の専門家としてのキャリアがあるだけに、もっともらしい。中国の留学生が日本で惨殺されて、反日運動で日本と中国が騒然となるなかで、侵略が始まるというやり方があるというのである。
 自衛隊将官OBは、今ならば、通常の武力衝突があっても、制空権、制海権の勝負なので、自衛隊の圧勝だという。個々の戦いはそうなのだろう。
 しかしそれが確実であることがわかれば、相手はそんな戦い方はしない。そうなった時に、14万人(外務省・平成24年速報版)の在留邦人が人質にとられるのだろうか。昨年9月の反日暴動や、尖閣諸島漁船体当たり事件の際に、石家荘で民間人がわけもなく4名拘束されたことを思い出す。全てを最悪に考えて行動せざるを得ないのではないか。14万人は在留届の受理数に過ぎない。届出していない人や長期滞在者などを含めると、40万規模の邦人がいるという。
 もう一つは、今も勇ましい中国の将官が宣言するようにミサイルを活用する手がある。日本はその防衛に充分な対応をとっているとは言い難い。北朝鮮にミサイルを打ち込ませて、成果は自分たちがその成果を獲得するという考え方もありそうだ。