地方の問題を中心に

1.ヤラセメールと反対運動
 読売新聞のWEBでヤラセメールとひくと、「九州電力玄海原子力発電所の再稼働を巡り、九州電力が行った組織的な世論工作。6月に佐賀県知事と面談した九州電力幹部が、知事から県民説明番組に賛成意見を投稿するよう要請されたとするメモを作成。その後、投稿を呼びかけるメールが社内外に送信された。第三者委は中間報告で、知事の真意はおくとして、メモの記載と同趣旨の発言を行ったことは否定しがたいと認定した。」と解説が出てくる。
 知事も九州電力の役員も不注意だったとは思うが、こうした番組や討論集会では、通常、反対運動の関係者しか投稿しない参加しないということがよくある。技術的な知見とともにバランスのとれた世論を、番組の制作側、あるいは集会の運営側が拾い出す予算・時間・人材が十分でない場合がほとんどだと思われる。知事は賛否両論あるのを踏まえて、自分はこう判断するというところを見せたかったのだと思う。
 先日、東日本大震災の瓦礫の焼却についての説明会の様子がニュースとして放映された。数人の反対意見がテレビ放映されたが、理論や理屈、安全性での問題ではなくて、私が反対していて、なんとなく危険なのになんで自分の街の焼却炉で焼くのかという話でしかなかった。コトナカレ主義を一喝する天下の御老公様は、石原都知事を除くと、もういないらしい。
2.八ッ場ダムマニフェスト
 アジアとアフリカで、中国が建設する巨大ダム建設が世界中に大きな影響をもたらしつつある。全てのダムが全て良いとは思わないが、八ッ場ダムは違う。既に7-8割の工事は終わっており、それを埋没原価と考えて判断すれば、結論は明らかだった。残りの工事の再開が決まると、地元の市町村長は万歳三唱をした。ダムの計画が60年も前で時間がかかることを良しとしない議論、民主党マニフェストとの関係を問う議論が多いが、問われていたのは、前原氏と民主党の実務能力と判断能力だった。私は大きな疑問符を付けた。
他のマニフェストの政策の中止・撤回も、野党の反対というよりも、その政策自体の検討が十分ではなかったということに尽きる。公務員給与の削減や議員定数の削減などは、やる気の問題と言われても仕方がないのではないか。積み残し法案が幾つもあるのに、税金を上げる以外のことを何も言わずに国会を早々に閉じた。
3.大阪市政の全国への影響  
 そうであればあるほど、大阪の橋下徹市長の評判は高くなる。就任当日の午後からの東京へのあいさつ回りでは、普通の市長や県知事ではとても会えない人々と次々に面談した。「できる橋下、馬鹿な○○」と書くと多くの人の心の中に○○が思い浮かぶようになった。今週は、さっそく大阪の現業部門の分離と、地下鉄やバスの運転士さんの給与を民間並みに引き下げようとしていることが報じられている。
 マスコミはほとんど報道していないが、大阪市の問題点や大阪府大阪市の二重行政の課題はすでに分析がほとんど終わっているという。平松邦夫氏の前の関淳一市長の時代に、慶応大学の上山信一氏のグループが大阪市の職員とともに徹底的に大阪市を分析し報告書にまとめていた。関淳一市長は、公務員の厚遇や同和問題などにも着手し、地下鉄など現業部門の民営化も打ち出していたために、これに反発した勢力が、前回の市長選挙で平松さんを当選させた。だから平松さんではもとより改革ができるはずもなかった。その詳細は「行政の経営分析―大阪市の挑戦」(時事通信出版局 2008年)にまとめられている。
 橋下さんの選挙中の発言が大阪の地方公務員労働組合に向けられていた理由が初めてわかった。地方公務員は、国家公務員と同様に、政治活動は禁止されているが、罰則規定がなかった。北海道教職員組合のお金の使い方もひどかった。使い方の公開と法令に違反した場合の罰則規定を設けるべきだという議論が多くのメディアでなされている。
 一般のニュースを読んだり聞いたりしているだけだと何が問題なのか、良くわからなかった。大阪教育条例案の前文と付表、そして条例案に反対している共産党系の自由法曹団の反対意見書を読むと、こういう反対には反対しなければならないということがよくわかった。だから東京都や愛知県の知事が同調するのも当然だと思う。
 このことは橋下改革の影響が全国に及ぶことを意味している。地方において、市町村役場や公立学校は、その地域で最大の組織である場合が多い。地方であれ、都会であれ、選挙運動はきちんとした選挙対策本部の組織を作るための運動であることがほとんどだ。だから給与も安定した組織の公務員や教職員の労働組合が組織的に選挙をやれば、かなり政治の行方を左右してしまう。もし地方の公務員や教職員の政治活動に罰則規定がもうけられれば、その影響は全国に及ぶ。
4.関西道州制の議論
 日本の課題を内政・外交に分けると、内政上の課題は1)国、都道府県、市町村の三重行政の課題を解消すること。2)医療・介護の問題。これは都市計画の問題でもある。3)農業、林業水産業と酪農の問題。これは食料と国土計画の問題でもある。4)これらの3つに、一部外政上の課題が重なった災害や危機管理の問題だと考えられる。外政上の課題は、安全保障と通貨財政金融の問題が中心になる。
 三重行政の解消に切り札として期待される道州制の問題点は、道州単位でモノを考えている人がほとんどいないことだ。実は都道府県会議員の先生でも都道府県全域にわたってビジョンを描いている議員はかなり少ないと思われる。道州制は現実には理念の産物なのである。 
 道州制の議論の中で、橋下市長のブレーンでもある慶応大学の上山信一さんが数年前に書いていた関西道州制論議は特に見事だと思う。彼は「関西EU論」を唱えている。実際のEUが輝きを失いつつあるので関西の人達には怒られるかも知れないが、私は今も感銘を受けている。
 これまで関西は本当にまとまりがなかった。特に大阪・京都・神戸はそれぞれ独自の文化を誇り、自己主張が強く、各政令市と各府県の仲も悪い。多様性を活かして連携して観光集客や大学・企業誘致をすればいいのにお互いに張り合う。考えてみれば関西はEUに似ている。経済の中心大阪はドイツにあたる。(東大阪の中小企業はドイツの中小企業の技術力を思わせる。)文化の町京都はフランス。あか抜けた海洋都市、神戸はイギリス。和歌山はイベリア半島のスペイン。三重はイタリアで伊勢はバチカンだ。商才に長けた滋賀の近江はベルギー、海のない奈良はスイスだ。そして勤勉で女性の社会参加が進む福井はスカンジナビアだ。こうしてみると関西は実にEUに似ている。
 EU統合のきっかけは仏独の歴史的融和だ。そして東西ドイツの統一。(今回のダブル選挙はベルリンの壁が崩壊したことを意味する)ソ連並みの強固な体制を誇った大阪市の労使そして議会と首長の蜜月関係が崩壊が始まった。大阪市では(これから)情報公開や大改革、そして事業の民営化が進む。それに伴い大阪府大阪市の連携も進みだす。(だから橋下改革ではなくて、時代認識としては持ち上げるつもりはないけれど「橋下革命」と呼ぶ方が適切かもしれない。)次の課題は大阪・京都の「二府融和」だ。これはEU形成における独仏の融和に相当する。双方の知事と財界トップの指導力次第で実現可能なはずだ。州都選定は対立の火種だがこれは早い段階で大阪・京都・神戸の3都以外に置くと決めればよい。例えば大津あたりでどうか。EU本部もパリに近いブリュッセルだ。(だから滋賀県の嘉田知事のこのあいだの橋下都政論は矛盾するとのコメントはいただけなかった。)こうして大阪・京都連合を基軸に関西の府県・政令市の権限を一手に吸い上げた道州政府のイメージを作ればよい。中心課題は企業誘致、観光・集客戦略(創造都市戦略)、大学・研究機関の再編、環境政策(琵琶湖・淀川・大阪湾の統一的管理)、交通政策(鉄道・高速道路網の整備)、そして防災対策・代替首都機能あたりだろう。
 道州制は地域の人々の悩みや希望に根ざしたものであるべきだとの上山さんの考え方には全く賛成だ。もしかしたら九州でも道州制が進むかもしれないが、関西道州制とは道州政府の中身も権限も形も違ってよいのではないか。それが一国多制度であり、道州制の本質だと思えてならない。
 都道府県別人口推移(単位:万人、2010年→2035年
岐阜208→176 愛知736→699 三重185→160 滋賀140→134 福井80→67 京都262→227 大阪873→737 兵庫556→479 奈良138→110 和歌山99→73 
 岐阜愛知まで含めれば3000万人、拡大関西だと2000万人、兵庫大阪京都だと1500万人規模の地域ができる。どこでくくるのだろうか。それはそれぞれの地域が判断すれば良いのではないだろうか。
5.沖縄のこと
 沖縄の一括交付金は3000億円弱という異例の満額回答となった。環境評価書は沖縄県に年内に郵送提出されることとなった。沖縄県はまだ辺野古移転を認めたわけではないという。沖縄防衛局長の失言は確かにひどかったが、そんな言葉で傷ついたとする言葉狩りはどうかと思う。言葉は当たり障りなくとも、思考能力がお粗末ならば、問題はもっと大きい。まだ追加請求書が国民に来ることになっている。
 米国の国務省の日本部長だったケビン・メア氏が、大学の授業で「日本人は合意文化をゆすりの手段に使う。合意を追い求めるふりをしながら、できるだけ多くの金を得ようとする」と述べたのは実に不適切だった。「できるだけお金を得ようとする人もいる」というべきだった。日本は彼に「大きな借り」を作った。言葉狩りが過ぎると、大事なことが分からなくなる。
6.震災と復興
 東大の御厨さんが、震災対策本部の働いた若手の官僚から、こんなことを聞いたと何かに書いていた。非常事態の中で仕事をしていると、みんなが寝ずに仕事を続けてしまう。調子がどんどん悪くなっているのに、机から離れない人間も出てくる。今回の震災でも同じような状況が起きた。すると、自衛隊の若手が「すぐに隣の仮眠室に行って寝てください」と注意したという。官僚たちが反論すると「いま、あなたたちが倒れたら、次にやってくれる人がいるとは限らない。非常事態だからこそ休まなきゃダメだ。」と一喝したという。非常事態だからこそ、チームは無理してはいけない。順番に仮眠室で寝て戻るというサイクルをつくって、チームを動かし続けることが大切だ。自衛隊員も凄いが、それに感心しながら従う官僚がいることにちょっとほっとした。
 それでも復興の遅れは本当に腹立たしい。大の大人の経験がないからなどとの言い訳は見苦しい。上の人間の能力と志そして覚悟がないだけではないか。交替すればよいだけだ。
 今から300年ほど前の元禄・宝永地震では、これから起こると心配されている東海・東南海・南海の連動型の大地震や富士山の噴火があった。時の幕府では勘定奉行荻原重秀が活躍した。ただ荻原重秀は、課税の強化し、検地の推進したが、改鋳という手段によって、通貨の発行量も増やした。管理通貨という考え方をもっていたといわれる。それから150年後の幕末の安政年間で、やはり日本列島で地震が連鎖した。東日本大震災の復旧復興の遅れは腹立たしいが、それ以外にも必要であることが明らかになった自衛隊の拡充や新たな公共投資が顧みられていないことが気になる。増税も必要だが、世界の景気から考えて、マクロ経済的対策が必要な時期に来ている。
 市町村の災害対策関係者の間で、新潟県長岡市の公共施設の考えかたが注目されている。総工費を2-3%上乗せして公共施設と学校を防災拠点化進めている。災害時の体育館の利用をするためには、水(1人、1日3リットル)と緊急時の電話回線、都市ガスが使えなくなった時のプロパンガス変換器などが必要だ。緊急時のヘリポート整備や公共施設の自家発電設備、電源車接続設備、シャワー施設もあった方が良い。学校の半屋外空間は、通常は部活の雨天練習場ともなるが、災害時は救援物資の荷捌き所や炊き出し場所となる。そうしたことに全国的にお金を使っても誰もバラマキ行政とは言わないだろう。